『アクアラング』(Aqualung)は、イギリスのプログレッシブ・ロック・バンド、ジェスロ・タルが1971年に発表した4作目のスタジオ・アルバム。
背景
1970年12月に初代ベーシストのグレン・コーニックが脱退し、イアン・アンダーソンの幼馴染であったジェフリー・ハモンドが後任として加入。
本作のレコーディングは、1970年のクリスマス前後の3〜4週間で行われた。アンダーソンは、レコーディングに使用されたアイランド・スタジオの音質に不満を持ち、マーティン・バーも後年「スタジオでは何もかもうまくいかなかったから、バンド・メンバーの間の緊張も高まって、レコーディングは本当に大変だったよ」と振り返っている。「ロコモーティヴ・ブレス(蒸気機関車のあえぎ)」は、まずアンダーソンがバスドラムとハイハットを録音し、それから他のパートをオーバー・ダビングするというプロセスでレコーディングされ、この曲ではクライヴ・バンカーはシンバルとタムを担当した。
歌詞は宗教をテーマとしており、アンダーソン自身は否定しているが批評家からはコンセプト・アルバムとみなされることも多かった。
反響
全英アルバムチャートでは23週チャート圏内に入り、最高4位を記録して4度目のトップ10入りを果たした。
アメリカのBillboard 200では7位に達して、自身初の全米トップ10入りを果たし、1971年7月にはRIAAによってゴールドディスクに認定され、リリースから18年後の1989年11月にはトリプル・プラチナの認定を受けている。また、シングル「讃美歌43番」はBillboard Hot 100で91位を記録。
ノルウェーのアルバム・チャートでは31週連続でトップ30入りし、うち4週にわたり3位を記録するヒットとなった。また、2011年にはリマスターCDが再度チャート入りして35位を記録。日本では本作で自身初のオリコンLPチャート入りを果たした。
評価
Bruce Ederはオールミュージックにおいて5点満点中4.5点を付け「ハードロックやフォークのメロディと、信仰や宗教に関するイアン・アンダーソンの小難しい考察(組織的な宗教がいかに人間と神の関係を制限しているかというテーマが中心)を融合した、全米7位のヒット作にしては余りにも深遠なレコードで、何百万人ものロック・リスナーの耳に届いたアルバムとしては最も知的な作品の一つ」と評している。
1971年7月22日付の『ローリング・ストーン』誌では、ベン・ガーソンが「音楽的才能は優れており、見事に構築された曲が多いとはいえ、このアルバムは決して突出しておらず、それどころか生真面目さによって台無しにされている」と批判的なレビューを執筆した。しかし、後に同誌が選出した「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」では337位にランク・インしている。
マーティン・バーによるタイトル曲のギター・ソロは、『ギター・ワールド』誌が選出した「100グレイテスト・ギター・ソロ」で25位にランク・インした。バー本人によれば、このソロはワン・テイクで録音された即興で、「もしうまくいかなかったら、このスペースはフルート・ソロになるところだったから、あのソロがうまくいったのは私にとってラッキーだった」と語っている。
収録曲
特記なき楽曲はイアン・アンダーソン作。
- アクアラング "Aqualung" (Ian Anderson, Jennie Anderson) – 6:35
- クロス・アイド・マリー "Cross-Eyed Mary" – 4:08
- 失意の日は繰り返す(チープ・デイ・リターン) "Cheap Day Return" – 1:22
- マザー・グース "Mother Goose" – 3:51
- 驚嘆(ワンダリング・アラウド) "Wond'ring Aloud" – 1:53
- アップ・トゥ・ミー "Up to Me" – 3:13
- マイ・ゴッド "My God" – 7:10
- 讃美歌43番 "Hymn 43" – 3:17
- 後流(スリップストリーム) "Slipstream" – 1:11
- 蒸気機関車のあえぎ(ロコモーティヴ・ブレス) "Locomotive Breath" – 4:24
- 終末(ワインド・アップ) "Wind-Up" – 6:05
リマスターCDボーナス・トラック
- リック・ユア・フィンガーズ・クリーン "Lick Your Fingers Clean" – 2:44
- 終末(ワインド・アップ/クォッド・ヴァージョン) "Wind Up" – 5:22
- イアン・アンダーソン・インタヴュー(抄録) "Excerpts from the Ian Anderson Interview" – 13:54
- ジェフリーへ捧げし歌(BBCセッションズ) "A Song for Jeffrey" – 2:49
- ファット・マン(BBCセッションズ) "Fat Man" – 2:54
- ブーレ(BBCセッションズ) "Bourée" (I. Anderson, Johann Sebastian Bach) – 3:58
他メディアでの使用例
収録曲「ロコモーティヴ・ブレス」は、『ジュマンジ』(1995年公開)、『ビューティフル・ガールズ』(1996年公開)、『サルバドールの朝』(2006年公開)といった映画のサウンドトラックで使用された。また、『ムーンライト・マイル』(2002年公開)では本作から「アクアラング」と「讃美歌43番」の2曲が使用され、「アクアラング」は『華氏911』(2004年公開)、『グッバイ・キス-裏切りの銃弾-』(2006年公開)でも使用された。
カヴァー
- クロス・アイド・マリー
- アイアン・メイデン - シングル「The Trooper」(1983年)のB面に収録。
- 讃美歌43番
- オーヴァーキル - カヴァー・アルバム『Coverkill』(1999年)に収録。
- ロコモーティヴ・ブレス
- W.A.S.P. - シングル「Mean Man」〈1989年〉のB面に収録。後にアルバム『ヘッドレス・チルドレン』のリマスターCDにも収録された。
- ハロウィン - カヴァー・アルバム『ジュークボックス』(1999年)に収録。
- スティクス - カヴァー・アルバム『Big Bang Theory』(2005年)に収録。
参加ミュージシャン
- イアン・アンダーソン - ボーカル、フルート、アコースティック・ギター、バスドラム、ハイハット
- マーティン・バー - エレクトリックギター、リコーダー
- ジョン・エヴァン - オルガン、ピアノ、メロトロン
- ジェフリー・ハモンド - ベース、アルト・リコーダー、ボーカル
- クライヴ・バンカー - ドラムス、パーカッション
アディショナル・ミュージシャン
- デヴィッド・パーマー - オーケストラ・アレンジ、指揮
脚注
注釈
出典
外部リンク
- Aqualung - Discogs (発売一覧)




